粗品の常識
「四十年ぶりの商品取引所法の改正が実現」「通産、農水両省、商品ファンド法案を国会提出へ」一九九一年は商品取引、及び商品取引所にとって激動の年となりました。
日本で商品先物取引といえば一般には「派手な仕手戦」「強引な勧誘」といったマイナスのイメージがまだまだ強く、証券や金融市場に比べて社会的な認知度が低いのが実情です。
しかし欧米では証券や金融と並んで商品取引は確固たる地位を占めており、取引のグローバリゼーション化の流れの中で日本の果たすべき役割は年々、急速に高まってきています。
事実、八二年に東京金取引所(現在の東京工業品取引所の前身)で金の先物取引が始まって以来、市場規模は急拡大し、出来高は毎年のように過去最高を更新中です。
市場参加者も個人、事業法人に始まって大平商社、リース会社も加わるなど、市場の流動性も飛躍的に高まっています。
商品取引所を監督しているのは通産、農水両省です。
両省はこれまで、商品取引の社会的なイメージの低さを考慮してか、商品先物行政では戦後一貫して「不拡大方針」を取り続けてきました。
しかし、諸外国から市場整備を求める声が高まってきたことや、商品市場が拡大していることを背景に、従来の規制行政を育成行政に百八十度転換、これが九〇年末に施行された実に四十年ぶりという商品取引所法(商取法)の抜本改正につながったわけです。
改正商取法の柱は①国際化への対応、②市場の整備・統合、③の三点です。
国際化への対応としては外国企業に対する門戸開放や、オプション(選択権売買)、指数など新種取引を導入して欧米の取引ルールに合わせることなどが盛り込まれています。
また市場の整備・統合では取引所合併規定の新設のほか、最低資本金制度を定めて商品取引会社(取引貝)の再編・淘汰を進めていく考えです。
どれをとっても従来の両省のスタンスからは考えられなかった変化といえるでしょう。
商取法の改正と並び、商品市場に押し寄せる変革の波の発信源になっているのが商品ファンドです。
商品ファンドとは投資家から集めた資金を商品市場で運用、ここで得た利益を投資家に配分するというもので、いわば有価証券投資信託の商品版といえます。
欧米で急成長しており、八八年から大手商社やリース会社が日本での持ち込み販売を始めました。
現在の商品ファンドの運用対象は欧米の商品市場に限られていますが、日本市場でも運用ができるようになれば市場規模が拡大することは確実です。
こうした狙いから通産、農水両省は九一年三月末、「商品投資に係る事業の規制に関する法律案」(商品ファンド法案)を決定し、九一年春の国会に法案を提出しました。
商品取引が現在置かれている状況を簡単に述べてきましたが、では商品取引とはそもそもどういうものか、商品取引所の仕組みはどうなっているのかについての説明に入りましょう。
商品取引所とは資本主義の中でも最も高度化し、組織された商品市場だといわれます。
ドイツの社会経済学者、マッダスーウェーバー(一八六四-一九二〇年)は、その著書『取引所』の中で、取引所について「社会組織がどう変わろうと、厳密に社会主義的なものにさえならなしても欠くことのできない制度」だと書いています。
一般にいう取引所とは、売り手と買い手が集まって値段を決める場所のことを指します。
こうした取引のうち、いちばん初めの形態は、取引する商品を実際にその場に持ち込んで行う取引です。
生鮮食料品や生花などの卸売市場、家畜や木材などのセリ市、あるいは縁日などの特別の日にたつ市などがこれに該当します。
しかし品質の同じ商品が大量に作られるようになると、全部の商品をいちいち手に取って見なくても、見本だけ見れば売買ができるようになります。
これが見本取引です。
この形がさらに進むと、見本すら持ち込まず、銘柄を指定しただけで取引ができるようになります。
銘柄とはある商品を他のものと区別するための、いわば商品の名前です。
工業製品などはメーカーが名付け親になりますが、農産物などでは自然発生的に、生産地、集散地などを商品の名前にしたのが始まりで、その後、検査制度の発達にしたがって各種の等級、規格なども必要に応じ銘柄に取り入れられるようになっています。
銘柄をいえばどんな商品かわかるので、見本を見ないでも取引ができるわけです。
これが銘柄取引です。
この段階になると、その時点で商品を用意していなくても、「何月何日に受け渡しする」という約束の先物取引ができるようになります。
遠方で買い付けて輸送中のものや、生産の準備を進めているだけでまだ出来上かっていない商品まで売買できるわけです。
銘柄取引が進んでくると、それぞれの銘柄に対する評価、つまり銘柄間の価格差が固まってきます。
こうなると、ある銘柄を標準品と決めておいて、その銘柄の価格さえ決まれば、ほかの商品は標準品を基準にした一定の価格差で取引できるようになります。
このような取引を「標準品取引」または「格付け取引」と呼びます。
この方法なら、広い範囲の売買が標準品に集中し、大量の売買が能率的に進められるうえ、広範囲の需給を反映した価格の形成が可能になります。
この場合に重要なのは、取引の約束をあらかじめ細かく決めておくことです。
いざこざのタネになり、取引が混乱するのを防ぐためです。
標準品先物取引に必要な約束は次の点です。
①取引の対象とする上場商品、②標準品、③受け渡し供用品(標準品を基準に一定の価格差で受け渡しできる銘柄)、④格差(標準品と各供用品との価格差。
これを決めることを格付けといいます)、⑤呼値と呼値単位(一キログラム当たりいくら、と値段をつける場合、一キログラムが呼値、22値動きの最小単位が呼値単位)、⑥売買単位、受け渡し単位(取引の最低単位)、⑦限月(受け渡し月)、⑧値幅制限率(たとえば前日に比べ五パーセント動いたらストップ高、ストップ安とし、これを超える値段はつけさせない)-などです。
これらの点を決めたうえで、土曜・休日を除く毎日、一定の時間に一定の場所に集まって取引するわけです。
こうなると、物理的な制限から誰でも取引に直接参加するわけにはいきません。
市場の仕組みや運営の方法について、法律をはじめ細かな規則が必要となり、それが公に認められる必要が出てきます。
こうして高度に組織化された商品取引所が出現することになります。
商品取引所の最大の機能は、商品取引会社を通じさえすれば誰でも、いつでも売買に参加できる点にあるといっていいでしょう。
商品取引所の価格が高すぎると思った人は売り、逆に割安だと思う人は買えばいいわけです。
商品取引所では、実際に商品を持たず、受け渡しをしなくても取引に参加できます。
商品を持っていなくても売ることは可能で、自分が適当と思う価格まで下がった時に買い戻せば、その値下がり分かもうけになります。
逆に買っていた人は適当な時期に売ってしまえばその契約は解消され、商品を引き取る必要はありません。
こうして売買の値差、差金のやりとりで決済できるうえ、その間の資金も商品の代金をまるまる用意する必要はなく、普通は商品の総代金の一割程度の担保金(委託証拠金)で済む仕組みですので、一層多くの人々が取引に参加できることになります。
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